略綬について


旧軍軍装時の略綬の組み方の解説です。
揃えるのは勲章記章の本章より難易度が低いため最初は略綬から入りがちですが、管理人もこの趣味を始めたての頃は順序どころか何の略綬かもわからないものをお店で組んでもらったまま服に付けていてとんでもない有様でした。モデルにする軍人が決定しているならばその人と同じように付ければ問題ありませんが、架空の設定でやる場合かなりややこしいので、参考程度にこちらで解説します。

1.略綬とは
一般的に略綬と言えば、本人が保有する勲章や記章のうち綬部分のみを金属板などに組み合わせて左胸に並べることで、勲章記章本体の佩用を省略しつつ本人の受章歴やキャリアなどを示すために用いられるものです。
 
一般的な略綬のイメージ(左:日本軍 右:ドイツ国防軍)


ただ日本においては当初、略綬とは上の画像のような円形のもののみを指し、これらはスーツなどの平服で議員バッジや民間企業の社員章のように左襟のボタンホールに差し込んで佩用します(画像は勲二等瑞宝章の略綬)。勲章を授与されるときに略綬として付属してくるのも、この円形のものです。一方、軍装などで左胸に付ける一般的なイメージでの長方形の略綬は大正7年内閣告示第4号(勲章記章又ハ褒章ヲ有スル者制服著用ノ節略綬佩用ニ関スル件)により、幅は本綬と同じ、長さは曲尺三分(約9.09mm)のものを、勲章記章の所有者が各自で作成し左胸に佩用することとされました。幅については、頸飾、大綬、綬なしの勲章については功三級勲三等と同じ幅としています。この幅は一寸二分なので約36.36mmとなります。ちなみに功四級勲四等以下もすべて同じ幅のため、等級で幅が変わることはありません(※)。また、複数の略綬を佩用する場合は本章と同じ順序で連結して佩用します。複数佩用時の連結の方法については特に規定がないのですが、大抵は下の画像のような金属製の板に略綬をツメで取り付けて作成されています。また段や列も作成する人によりバラバラだったようで、現在残っている実物においても同じ数の略綬で連結金具の形状はいくつかパターンが見られます。

5連略綬:1列目に5枚  1列目3枚+2列目2枚
9連略綬:3列×3枚、2列×4枚+3列目1枚 など
ただ1列に6枚以上や2枚を複数列にしたもの、あるいは5枚の複数列は見たことがないので、これ以下が限界かと思います。

本項では、軍装時に佩用する長方形の略綬についての解説になります。円形の略綬については別途解説します(予定)。
※綬の幅について、旭日章以外の勲章は明治21年閣令第21号で一寸二分と定められているのに対し、旭日章のみ規定上は一寸(約30.3mm)とされていました。しかし現物の幅は実際に測ってみると規定と異なり、他の勲章と同じく一寸二分となっています。この辺りの相違に関しては調査中ですが、とりあえず旭日章も規定ではなく現物に則り略綬は一寸二分と解釈します。

2.装着の順序
基本的には勲章や記章の順序と同じ
1.自国の勲章
2.外国の勲章
3.自国の記章
4.褒章
5.外国の記章
6.赤十字

になります。

1.自国の勲章
まず自国、すなわち日本の勲章が来ます。基本的には金鵄勲章、旭日章、瑞宝章の三種類で、順序は勲章本体を佩用する場合と同じく最も勲等功級の高いものから順に、同等の場合は後から受章したものをより上位に並べます。略綬自体は(勲一等旭日桐花大綬章を除き)上位から下位の勲等まで同じものを用いるため略綬だけで等級は判別できませんが、並び順によって勲章間の相対的な高低は読み取ることができます。なお金鵄勲章は「特に優れた戦功」に対する勲章であり受章資格がかなり厳しいため、将官であっても保有しておらず旭日章と瑞宝章のみの例も少なくありません(金鵄勲章ほどではない戦功に対して、旭日章や瑞宝章が授与されることもあります)。なおごく少数の例として大勲位菊花章を受章している場合は、最上位勲章なので当然他の勲章の略綬よりも前、つまり先頭になります。ただし史実の軍人の受章者は数えるほどしかいないので軍装の略綬に入れる場合は人物像がかなり限定されてくるので要注意です。

2.外国の勲章
自国勲章の次は日本以外の国から叙勲されたものですが、満州国を除き叙勲されていても佩用しないケースが多く見られます。設定にこだわりがなければ無理に組み込まなくてもいいかと思います。

3.自国の記章
日本の記念章や従軍記章を、證状日付(受章した日)の古い順に並べていきます。大抵は制定順に受章するので、基本的に制定年月日の古い順で問題ないです。ただし本章と同じく憲法発布記念章のみ、明治七年従軍記章よりも後の制定ですがこれより前に付けます。注意点として、佩用する記章によって年代やキャリアが絞り込まれてしまうため、人物の設定を考慮して最初の記章の年を決め、何年現在の設定であるかまで決めておく必要があります。陸士や海兵の出身者は勲章こそ上位のものを受章しますが、記章は戦役や式典に参加してないと受章できないため、中尉〜大尉くらいまでの間はキャリアの長いベテラン下士官のほうが勲章記章の数が多いというのもよくあることです。

4.褒章
勲章・記章の佩用位置と順序の解説と重複しますが、褒章はその性格上、軍人や役人よりも財界人、名士など民間人のほうが圧倒的に多いので、設定上のこだわりがなければ無理に組む必要はないと思います。

5.外国の記章
こちらも外国の勲章と同じく満州国以外はあまり見られませんので、入れるなら満州の記章のみ組み込んだほうが無難かと思います。

6.赤十字
赤十字社の有功章や社員章を保有している場合は、一番後ろに赤十字の略綬を入れます。また満州国赤十字もここに入ります。なお有功章と社員章両方を保有している場合であっても、略綬はまとめて1つだけ付けます。

これを優先順位通り並べると以下のようになります。
(解説のため4列にしています)

金鵄勲章
旭日章
瑞宝章
外国勲章
憲法発布記念章
明治七年従軍記章
大婚二十五年祝典之章
明治二十七八年従軍記章
明治三十三年従軍記章
明治三十七八年従軍記章
皇太子渡韓記念章
韓国併合記念章
大礼記念章(大正)
大正三年乃至九年戦役従軍記章
戦捷記章
国勢調査記念章
大礼記念章(昭和)
帝都復興記念章
昭和六年乃至九年従軍記章
支那事変従軍記章
紀元二千六百年祝典記念章
褒章
外国記章
赤十字
※1 便宜的に金鵄勲章、旭日章、瑞宝章の順に並べていますが、上記2.装着の順序での解説通り受章が最新のものから順に並べます
※2 解説上の都合で並べましたが、勲章・記章の佩用位置と順序に記載した通り、憲法発布記念、皇太子渡韓記念、韓国併合、国勢調査、帝都復興あたりは軍人が貰い辛いので避けたほうが無難かと思います

備考
以下に日本の軍人が佩用していることが多い満州国の勲章と記章について簡単に紹介します。
満州国の勲章

名称
解説

大勲位蘭花大綬章
日本の菊花章に相当する勲章。
調査中
龍光勲章
日本の勲一等旭日桐花大綬章に相当する勲章。
景雲章
景雲章
日本の一等〜八等の各旭日章に相当する勲章。

柱国章
日本の瑞宝章に相当する勲章。
満州国の記章

名称
解説
大満州国建国功労賞
大満州国建国功労賞
満州国建国に際し功労のあったものに与えられた。

大典記念章
昭和9年の溥儀満州国皇帝記念式典に参加した者に与えられた。

満州皇帝訪日記念章
昭和10年の満州国皇帝溥儀来日の関係者に与えられた。
ノモンハン事件従軍記章
国境事変従軍記章
ノモンハン事件の際に従軍した日本及び満州の軍人に与えられた。
建国神廟創建記念章
建国神廟創建記念章
建国神廟の創建に関わった者に与えられた。
満州赤十字
満州赤十字
日本の各赤十字に相当する満州の赤十字章。

※このコンテンツの一部は斑鳩堂様の協力を得て作成いたしました

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